子どもの権利条約(児童の権利に関する条約) United Nations Convention on the Rights of the Child (UNCRC、または、CRC) は、1959年に採択された「子どもの権利に関する宣言」の30周年に合わせて1989年11月20日に国連総会において全会一致で採択され、翌年9月2日に発効している。日本は、1990年9月21日にこの条約に署名、1994年4月22日に批准(同年5月22日に効力発生)している。この条約の目的は、18歳未満の全ての子どもの保護と基本的人権の尊重の促進である。
この条約は、今なお世界中に貧困、飢餓、武力紛争、虐待、性的搾取といった困難な状況におかれている児童がいるという現実に目を向け、児童の権利を国際的に保障、促進するため、国連人権委員会の下に設置された作業部会において、多くの国連加盟国政府、国連機関等が参加し、10年間にわたって行われた審議の成果である。
この条約の内容は、特定の国の文化や法制度を偏重することなく、先進国であれ、開発途上国であれ、すべての国に受け入れられるべき普遍性を有するものになっている(外務省)。国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会の
すべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、(中略)
児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め、
児童が、社会において個人として生活するため十分な準備が整えられるべきであり、かつ、国際連合憲章において宣明された理想の精神並びに特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべきであることを考慮し (中略)
極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、このような児童が特別の配慮を必要としていることを認め、
児童の保護及び調和のとれた発達のために各人民の伝統及び文化的価値が有する重要性を十分に考慮し、
あらゆる国特に開発途上国における児童の生活条件を改善するために国際協力が重要であることを認めて、
次のとおり協定した。
ここでは、子どもの監護・養育環境や父母による親権のあり方を考える上で、第3条、第7条、第9条、第12条、第18条、第21条を抜粋して取り上げる。なお、この条約における児童とは、第1条が規定する「18歳未満の全ての者」である。
第3条 子どもの最善の利益の保護
締約国は、子どもに対する全ての措置において「子どもの最善の利益」を考慮しなければならないとしている。
子どもには氏名、国籍を得る権利があると共に、できる限り父母を知り、その父母に養育される権利があることを規定している。
第9条 子どもが父母の意思に反して父母から分離されない権利
子どもがその父母の意思に反して父母から引き離されてはならないことが規定されている。子どもが父母から分離されるのは、権限のある当局が、司法の審査に従って、適用のある法律と手続きに沿って子どもの最善の利益のために必要だと決定する場合に限られる。そのような場合の事例として、虐待や放置とともに、父母の別居が挙げられている。子どもの最善の利益を考慮すれば、父母の別居によって子どもと別居する父母が引き離される場合には、相当な補償(面会交流)が、原則として、必要であろう。
第12条 子どもの意思の尊重
子どもに関わる裁判上または行政上のあらゆる手続きにおいて、子どもは意見を表明する権利を持っている。そして、そのような子どもの意見は、子どもの年齢や成熟度に応じて考慮されなければならない。
第18条 父母による共同責任の原則と育児支援
1項に「締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う」というように間接的で、迂回するような表現がされているが、子どもの監護・養育において、父母が、原則として共同責任を果たすべきものであることは明白である。
第21条 養子縁組における子どもの最善の利益の確保
養子縁組においては、子どもの最善の利益が考慮されるべきこと、また、(a)に「児童の養子縁組が権限のある当局によってのみ認められることを確保する」こととされる。「必要な場合には、関係者が所要のカウンセリングに基づき養子縁組について事情を知らされた上での同意を与えていることを認定する」とあるが、子どもと別居する父母が、あずかり知らないところで、裁判所等の関与もなく、同居親の一存だけで、子どもの養子縁組が出来ることなどは想定されていない。
子どもの権利条約で規定されているこれらの条文は、日本における子どもの監護・養育の背景と、また、既存の法制度と照らして整合していない。早急な改善が求められる。第19条には、子どもの虐待、ネグレクト、搾取、性的虐待の防止と保護義務が規定されている。これらは、そのように規定しても、なかなか効果を上げることが困難な問題のようである。
ここまで見てきた子どもの権利条約の条文から、同条約が、離婚後等においても共同親権制を原則としていることは明らかである。日本は、現行の民法において、離婚後等の単独親権制を定め、事実上、共同親権を禁止している。単独親権であっても、父母が協力すれば、子どもの共同養育は可能であり、共同親権制にする必要はないという主張もしばしば見られるが、子どもの権利条約の趣旨を無視・軽視した場当たり的な主張だと言える。基本的に不仲であるからこそ離婚する父母に対して、子どものために関係を良好に保つことは望ましいとしても、それを完全に父母に委ねて、公的な支援がないとすれば、明らかな法制度上の不備である。
2019年2月に、日本は、国連・子どもの権利委員会から「子どもの最善の利益に合致する場合には(外国籍の親も含めて)子どもの共同親権を認める目的で、離婚後の親子関係について定めた法律を改正するとともに、非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることを確保すること(Ⅲ F 27(b))」と勧告を受けている。
また、養子縁組についても「すべての養子縁組(直系親族による、または、後見人によるものを含む)が裁判所による許可の対象とされ、かつ子どもの最善の利益にしたがって行なわれることを確保すること(Ⅲ F 30(a))」と勧告を受けている。日本においては、離婚後等の単独親権者が、民法第824条の規定により子どもの法定代理人となり、15歳未満の子どもの養子縁組においては、子どもに代わって縁組の承諾をすることが出来る(民法第797条)。このため、別居する子どもの実際の父母が知らないところで、裁判所等の許可を必要とすることもなく、親権を持つ父母によって養子縁組が行われることになる。さらに、親権を持つ父母の再婚によって、その再婚相手が子どもの養親となり実の父母と共同親権を行使するようになると民法第819条6項の規定による別居する親権を持たない父母による親権者変更の請求が出来なくなってしまう。
※参照: 国連・子どもの権利委員会 総括所見(第4回・第5回) 和訳 / 英文
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