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ドイツ:離婚後単独親権制は違憲

 日本の民法とドイツの民法(BGB)は構造が似ている。日本の民法は、明治時代にドイツやフランスの大陸民法の影響を強く受けて起草されている。

 ドイツでは、1979年に民法(親権法)が改正されて、それまでの親権が、親の配慮という表現に置き換わった。 親の権利ではなく親の責任や義務を明確にするためである。この時、ドイツでも現在の日本と同じ離婚後単独親権制が定められた。正確に言えば、ドイツでは離婚後の単独親権(配慮)制度がとられていたが、法改正後も離婚後単独配慮制が継続することになり、それが日本と同じように例外のない規定であることが強調された。

【BGB1671条 親の離婚後の親の配慮】 (親権法の全面改正後)

  1.  父母の婚姻が離婚されるとき、家庭裁判所は、父母のいずれに共同の子のための親の配慮が帰属すべきかを決定する。
  2.  裁判所は、子の福祉に最もよく合致する取決めを行う。この場合、とくに父母や兄弟姉妹に対する子の絆が顧慮されなくてはならない。
  3.  子の福祉のために必要であるときにのみ、裁判所は、父母の一致した提案とは別の判断を下すものとする。満14歳になった子が、異なる提案をするときには、裁判所は2項にしたがって裁判する。
  4.  親の配慮は、父母の一方に単独で委ねられなくてはならない。子の財産上の利益が必要とするときには、財産配慮は、全面的もしくは部分的に父母の他の一方に委ねられなくてはならない。
  5.  子の福祉にとっての危険を回避するために、必要があるときには、裁判所は、身上配慮および財産配慮を後見人もしくは保護人に委ねることができる。

 この改正で問題にされたのは、BGB1671条4項に規定されていた「原則として」という文言が削除されたことである。このため法律の文言上、例外として離婚後の親の共同配慮が認められる可能性を排除することになった。このため離婚後の親の配慮は、名実共に例外なき単独配慮となった。

 その他に、次のような点が注目される。1)共同配慮であっても条件が整えば子の利益に合致するという見解が強く主張されるようになり立法課程でも吟味された。2)何が子の福祉に合致するかという判断において、子にとっての特定の関係人との絆が顧慮されなければならないとされた。3)子(満14歳以上)の意思を尊重する規定が設けられた。


  1979年改正法(1980年施行)の後も共同配慮の可否をめぐって議論が続いていた。そして、1982年に連邦憲法裁判所が、離婚後の例外のない親の単独配慮を定めたBGB1671条4項は、ドイツの憲法に当たる基本法6条2項に抵触するため無効であるとする違憲判決を出した。連邦憲法裁判所の判断は、「離婚した夫婦が親の責任を子の福祉のために引き続き共同で果たそうとする意思をもち、かつ、その適性を有しているときにさえ、自己の子に対する離婚した夫婦の共同配慮は不可能であるというBGB1671条4項の規定は基本法6条2項の親の権利を侵害するものである」というものだった。この違憲判決において離婚後の共同配慮は例外的なものとされたが、離婚後の共同配慮が可能となった。

【ドイツ基本法 第6条 婚姻、家族、非摘出子】
  1.  婿姻および家族は、国家秩序の特別の保護を受ける。
  2.  子の監護および教育は、両親の自然的権利であり、かつ何よりも先に両親に課せられた義務である。その実行については、国家共同社会がこれを監視する。
  3.  子は、親権者に故障があるとき、またはその他の理由で放置されるおそれのあるとき、法律の根拠に基づいてのみ、親権者の意思に反して家族から分離することができる。
  4.  すべての母は、共同社会の保護と扶助を求める権利を有する。
  5.  非嫡出子に対しては、その肉体的および精神的発達ならびに社会におけるその地位について、立法により嫡出子と同じ条件が与えられる。

 ドイツでは、1997年の親子法改正(1998年施行)により、離婚後の共同配慮が法制化された。離婚後も共同配慮を継続することで合意している限り、裁判所はその合意に干渉しないものとする共同配慮を原則とする改正が行われた。離婚後の配慮の帰属を定めていたBGB1671条は、共同配慮を選択しない時のための規定に大幅に変わった。

【BGB1671条 共同の親の配慮と別居】 (改正後)

1. 共同で親の配慮を有している父母が一時的にではなく別居しているときには、父母はいずれも、自己に親の配慮または親の配慮の一部を単独で委ねるように、家庭裁判所に申した立てることができる。
2. 前項の申立は、次のいずれかの場合に限り、許容される。
 1) 父母の他方が同意したとき。ただし、子が満14歳に達し、かつその委譲に反対している場合はこの限りではない。
 2)共同配慮の取りやめおよび申立人への委譲が、子の福祉に最も良く合致すると予想されるとき。
3. 親の配慮が他の諸規定に基づき別途取り決められなければならないときには、申立は許容されない。

※参照: 財団法人日弁連法務研究財団 離婚後の子どもの親権及び監護に関する比較法的研究会、「子どもの福祉と共同親権 別居・離婚に伴う親権・監護法制の比較法研究」、日本加除出版、2007年



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