日本における離婚後等単独親権制(民法第819条)の被害者は日本人だけではない。国際結婚の増加に伴い、日本国内において離婚後等単独親権制の弊害に直面する外国人も少なくない。国をまたぐ子どもの連れ去りに関しては、子どもの元の居住国に子どもを返還するハーグ条約が、日本でも2014年に批准されている。それでも、日本に子どもを連れ帰る日本人に対する非難は根強い。日本国内で外国人と日本人の婚姻関係が破綻した場合に別居する外国人の父母と子どもが会えなくなり、親子関係が断絶することも問題視されている。それは日本国内における日本同士の婚姻関係が破綻した場合と基本的に同じである。
2018年3月にEU26か国の大使は連名で法務大臣に対して書簡を送って、日本への子どもの連れ去りや日本国内において親子が会えなくなるなどの親子断絶の実情を訴え、改善を求めている。
アメリカは同年5月に日本をハーグ条約の不履行国に認定した。米国務省が公表した国際離婚破綻時の子どもの連れ去りに関する年次報告において、アメリカは日本をハーグ条約の「不履行国」に認定している。 日本は、翌年にはハーグ条約の不履行国リスト入りを避けることが出来た。子どもの返還命令執行の改善に向けた法改正の取り組みなどが評価されてのことであった。それでもアメリカの日本に対する警戒が解消されたとは言い難い。2019年の年次報告は、「条約に基づく命令の執行について効果的なメカニズムを欠いている点、及び、条約発効前の連れ去り事案に関して国務省は引き続き懸念を有している」としている。
2019年6月末のG20の首脳会議において、フランスのマクロン大統領は安倍首相に親子関係を断絶されてフランス人の親子に対する懸念を表明した。イタリアのコンテ首相やドイツのメルケル首相も安倍首相との会話の中で自国籍の親子の問題を話題にしている。
このような国際的な日本に対する批判を背景にして、2020年7月8日に、EUの欧州議会は、圧倒的多数(賛成686、反対1、欠席8)で日本に対する非難決議案を可決した。それは、日本国内におけるEU加盟国の国籍者と日本人の別居や離婚に関して、日本人による子どもの連れ去り、子どもと別居するEU加盟国の国籍者と子どもの親子関係の断絶を防止する措置を日本に求めるものである。
この欧州議会による非難決議の要点は、次のようなものだろう。
1.欧州議会は、子どもの連れ去りが日本における離婚後等単独親権制が原因であるとまで断言していないが、日本人による子どもの連れ去り、日本において離婚後等の共同親権・共同監護(養育)が法的に認められていないこと、子どもの連れ去りが児童虐待に当たることを同列で論じている(D)。欧州議会が受けている請願では、日本に共同親権・共同監護を認める規定がないことが、国際裁判所の判断に反して日本に連れ去られた子どもが元の居住国に返還されない理由とされている。
2.日本では、連れ去られた親には、面会交流権や子へのアクセス権が著しく制限されている、または、そのような権利自体が認められていないと欧州議会は名言している(E)。
3.日本は、1980年のハーグ条約(2014年批准)と子どもの権利条約(1994年批准)の加盟国である(F、G)。日本が締結したこれらの国際条約及び確立した国際法規は、憲法第98条に従って、誠実に遵守されなければならない。
4.子どもの意思は年齢や成熟度に応じて考慮されなければならない(H)。父母の共同制責任の原則を守らなければならない(I)。子どもの最善の利益が最も優先されなければならない(J)。子どもの利益に反する場合を除いて、子どもは両親と定期的に関係を維持し直接接触する権利を持つ(K)。子どもは父母の意思に反して父母から引き離されない(L)。これら、子どもの権利条約に明記されている子どもの権利ならびに加盟国の義務が遵守されるべきことが強調されている。
5.1980年のハーグ条約の加盟国は、子の適時返還のために、条約上の義務と適合するように国内法制を整備しなければならない(N)。ハーグ条約は、別居親の監護権の侵害を問うが、日本の離婚後等単独親権制は、別居親の監護権の侵害を容認している。
6.子どもの連れ去りは、早急に対処しないと、子どもと連れ去りを受けた父母の将来の関係を長期にわたって害する恐れがある(4)。子の連れ去りは、子どもの幸福を長期間損ねる。また、子どもと連れ去りを受けた父母の精神的な健康に有害である(5)。日本では、子どもの連れ去りや親子関係の断絶について、このような精神医学的、臨床心理学的な検証がされていない。
8.他国における家族法や子どもの権利、また、日本のような国において離婚や別居時に被る困難について警戒情報を提供することが望まれる(10)。イギリス、ドイツ、イタリアは、2020年に日本への渡航に注意喚起を発表していた。
9.EUと日本の戦略パートナーシップ協定などの席で、子どもの連れ去り問題についてあらゆる形態で提議されることが望まれる(11)。EU各国が日本との話し合いの席で、毎回、本題に優先して、子どもの連れ去り問題を提起することは考え難いが、それが推奨されていることの意義は大きい(23)。
10.別居親の面会交流権や子どもへのアクセス権を制限または完全に否定することは、子どもの権利条約第9条に違反することが明言されている(15)。
11.2019年2月に行われた国連・子どもの権利委員会からの共同親権(監護)を認める法改正についての勧告に従うように求められている。また、国際的な義務である面会交流権や子どもへのアクセス権を確保することが求められている(17)。
参考: European Parliament Press Release July 8, 2020
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