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法務省による24ヵ国の親権制度調査

 2020年4月に法務省民事局から「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果」が発表された。これは法務省が2019年4月に外務省を通して同年7月末までに実施する計画で始まった調査である。 8カ月以上遅れて公表されたことになる。それは日本の親権制度が国際的に特異なものになっていることと関わりが深いのではないかという疑念を禁じ得ない。実際に、日本と同じように離婚後も単独親権制を採っている国は、インドとトルコだけだと概要説明されている。それでも、インドについての調査結果を見ると「共同監護を認めた判例もある(2013年)」とされている。また、インドでは、子どもがいる場合でも日本と同じように協議離婚が認められているものの、面会交流と養育費の取り決めは義務付けられていて、婚外子は父が認知した場合は父母で親権を共同行使するなど、日本よりは共同親権制に近いようである。  国際社会のコンセンサスと言える共同親権制度を考える際にまず注目すべきことは、その様態であろう。大きく分けると、共同親権を原則とするもの(原則的共同親権制)と共同親権、または、単独親権を選択出来るもの(選択的共同親権制)に分けることが出来る。前者の例として、イタリア、オーストラリア、ドイツ、フィリピン、フランスなどがあげられる。また、後者の例として、カナダ(ブリティッシュコロンビア州)、スペインなどがあげられる。  インドネシアでは、共同親権制であっても共同で親権を行使することがまれであると報告されている。一方で、イギリスや南アフリカにおいては、父母が共同で親権を行使するのではなく、父母が共に親権を持ち、それぞれ単独で親権を行使出来るとされている。その場合、父母の意見が対立する場合はどうするのかが特に気になる。両親は離婚時に、子どもが誰と住むか、子どもが誰といつ一緒に過ごすか、子どもの養育に関する経済的な負担等、親権の行使の具体的な方法について、調整または取決めをする。それでも父母の意見が対立する場合は、調停による調整が行われ、それでも合意出来ない場合は裁判所が決定することになる。このような父母の意見調整のプロセスは、他の共同親権制の国と特に変わらないようである。単独で親権を行使するにしても、父母の意見が対立する場合には調停や裁判所の決定を受けることを踏まえて、父母は、他方の親に配慮した行動をとらざるを得ないだ...

ハーグ条約と国内法制度の矛盾

  1970年には年間5,000件程度だった日本人と外国人の国際結婚は、1980年代の後半から急増し、2005年には年間4万件を超えた。これに伴い国際離婚も増加し、結婚生活が破綻した際、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子どもを自分の母国へ連れ出し、もう一方の親に面会させないといった「子の連れ去り」が問題視されるようになった。このため、外国で生活している日本人が、日本がハーグ条約を未締結であることを理由に子どもと共に日本へ一時帰国することができないような問題が生じていた。   世界的に人の移動や国際結婚が増加したことで、1970年代頃から、一方の親による子の連れ去りや監護権をめぐる国際裁判管轄の問題を解決する必要性があるとの認識が指摘されるようになった。そこで、1976年、国際私法の統一を目的とする「ハーグ国際私法会議(HCCH)」 は、この問題について検討することを決定し、1980年10月25日に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」を採択(1983年12月1日発効)した。2019年10月現在、世界101か国がこのハーグ条約を締結している。  国境を越えた子の連れ去りは、子どもにとって、それまでの生活基盤が突然急変するほか、一方の親や親族・友人との交流が断絶され、また、異なる言語文化環境へも適応しなくてはならなくなる等、有害な影響を与える可能性がある。ハーグ条約は、そのような悪影響から子を守るために、原則として子どもを元の居住国に迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力について定めている。  ハーグ条約の目的は次の2つである。 1.原則として子どもを元の居住国に返還する  ハーグ条約は、監護権の侵害を伴う国境を越えた子どもの連れ去り等は子どもの利益に反すること、どちらの親が子の監護をすべきかの判断は子の元の居住国で行われるべきであること等の考慮から、まずは原則として子どもを元の居住国へ返還することを義務付けている。これは一旦生じた不法な状態(監護権の侵害)を原状回復させた上で、子どもがそれまで生活を送っていた国の司法の場で、子の生活環境の関連情報や両親双方の主張を十分に考慮した上で、子どもの監護についての判断を行うのが望ましいと考えられているからである。 2.親子の面会交流の機会を確保する ...

子どもの権利条約と国連・委員会勧告

   子どもの権利条約 (児童の権利に関する条約) United Nations Convention on the Rights of the Child (UNCRC、または、CRC) は、1959年に採択された「子どもの権利に関する宣言」の30周年に合わせて1989年11月20日に国連総会において全会一致で採択され、翌年9月2日に発効している。日本は、1990年9月21日にこの条約に署名、1994年4月22日に批准(同年5月22日に効力発生)している。この条約の目的は、 18歳未満の全ての子どもの保護と基本的人権の尊重の促進 である。   この条約は、今なお世界中に貧困、飢餓、武力紛争、虐待、性的搾取といった困難な状況におかれている児童がいるという現実に目を向け、児童の権利を国際的に保障、促進するため、国連人権委員会の下に設置された作業部会において、多くの国連加盟国政府、国連機関等が参加し、10年間にわたって行われた審議の成果である。  この条約の内容は、特定の国の文化や法制度を偏重することなく、先進国であれ、開発途上国であれ、すべての国に受け入れられるべき普遍性を有するものになっている( 外務省 )。  子どもの権利条約の包括的な価値観は「前文」に示されている。 前文   この条約の締約国は、  国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会の すべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、(中略)  家族が、社会の基礎的な集団として、並びに家族のすべての構成員、特に、児童の成長及び福祉のための自然な環境として、社会においてその責任を十分に引き受けることができるよう必要な保護及び援助を与えられるべきであることを確信し、   児童が、その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め 、  児童が、社会において個人として生活するため十分な準備が整えられるべきであり、かつ、国際連合憲章において宣明された理想の精神並びに特に平和、尊厳、寛容、自由、平等及び連帯の精神に従って育てられるべきであることを考慮し (中略)  極めて困難な条件の下で生活している児童が世界のすべての国に存在すること、また、...

離婚時の子どもの監護・養育に関する取り決め:面会交流と養育費

 現行の日本の離婚後等単独制の手続き上の明確な問題は、未成年の子どもがいても、裁判所も行政も関与することなく、子どもの親権者さえ父母のどちらか一方に定めれば離婚が出来ることである。夫婦(父母)の話し合いだけで、離婚している協議離婚が、離婚全体のおよそ9割を占めている。その弊害は、 ひとり親家庭における面会交流の実施割合が3割に過ぎないこと、養育費の支払いは2割に過ぎない という事実から明白である。  協議による離婚が多い離婚の実態は、厚生労働省による「 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告 」によって明らかである。面会交流の実施と養育費の支払いが低水準にとどまる原因として、確実に関係づけられる要因は、それらの取り決め自体をしていないという事実である。  協議離婚とは、夫婦の話し合いによって行われる離婚である。実際に十分な話し合いが行われているかどうかを考える時、離婚という夫婦が何らかの理由による不和の結果として起こる行動という性質を考えれば想像ができるだろう。十分な話し合いがされている場合は、少ないだろう。未成年者の子どもがいる場合に、子どもの親権者だけを決めて、すぐにでも離婚をしたい夫婦関係が破綻した父母が多いことは容易に想像が出来る。それが、離婚手続き上、公的に認められているのであれば、差し当たって好都合だと考える父母は多いのだろう。そのような離婚の実態は、前述の厚生労働省の調査結果で浮き彫りになっている。  離婚する父母において、養育費の取り決めをしている割合は、母子世帯で54.2%、父子世帯では74.4%に上る。ひとり親世帯に占める母子世帯の割合が9割に近い実状を踏まえると 過半数の離婚において養育費の支払いが取り決められていない ことが分かる。さらに言えば、そのような 取り決めを行わない理由は、「相手に関わりたくないから」「相手に支払う能力がないと思った」、「相手に支払う意思がないと思った」 などが上位を占めている。父子世帯においては、それらに次ぐ「自分の収入等で経済的に問題がない」という理由の影響も大きいであろう。  夫婦の不和という離婚の性質、統計的な実態に基づいて、日本が国際社会に反して夫婦の協議だけで離婚を認めていることの弊害は、言い逃れ出来ないだろう。  そのような状況は、面会交流に関しても同様である。  母子世帯において面会交流の取り決め...

離婚件数と離婚によるひとり親世帯数

 2018年の日本における婚姻件数は、58.6万件、2019年には60万件だった。1972年の110万件をピークにして低下し、90年代に一時的に盛り返したものの2000年代には再び減少傾向が続いている。一方で、離婚件数は、2018年に20.8万件、2019年も20.8万件で微増となっている。なお、2019年の婚姻と離婚の件数は概数。日本ではおよそ3組に1組が離婚する計算になる。これは、過去に高い水準にあった婚姻が解消されるなどの影響があり、一概には言えないが、婚姻が減り離婚が増える中で、離婚の割合は高まっている。  日本では離婚の内の約9割が「協議離婚」という夫婦の話し合いだけで離婚する形態をとっている。2008年に離婚全体に占める協議離婚の割合は87.8%だった。また、裁判所に関わる離婚としてその他に、調停離婚が9.7%、和解離婚が1.4%、判決離婚が1.0%あった。なお、2016年の協議離婚の割合は87.2%だった。このような統計から、日本における離婚が夫婦の話し合いだけで取り決められ離婚届が提出されていることが分かる。もっとも、このように夫婦の話し合いだけで離婚が出来る国は国際的には珍しい。未成年の子どもがいる場合など、裁判所や行政が関与して離婚が認められなければ、夫婦が離婚できない国が多い。   厚生労働省による「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によれば、母子世帯は123.2万世帯、父子世帯は18.7万世帯であった。これは割合にして、母子世帯86.8%、父子世帯13.2%であった。  母子世帯になった理由は、離婚(79.5%)、未婚の母(8.7%)、死別(8.0%)の順であった。また、父子世帯では、離婚(75.6%)、死別(19.0%)となった。父子世帯では、死別によってひとり親世帯になる割合が比較的高い。  母子世帯と父子世帯の全体的な割合と大差ないが、離婚による母子世帯は87.4%、父子世帯は12.6%であった。この割合を、母子世帯、父子世帯を問わず、離婚によるひとり親世帯の実態(加重平均)を求めるために使うこととする。  このような数値を用いて2018年の日本の離婚件数に基づいて次のような試算をしている。 意思に反して子どもに全く会えなくなった父母数:            71,564人 意...

アメリカ:世界の離婚後共同親権制は40年前にカリフォルニア州から始まった

 アメリカでも日本と同じように離婚後に父親に親権を与える時代があった。その後、父親の絶対的優位が修正され、20世紀になると母親優先が判例法によって確立していった。州によって違いはあるものの平均して85%近くの場合、母親に単独監護権(親権)が与えられるようになった。 このような 母親優先の原則 の背景には、 乳幼児期の原則 (tender years doctrine)と呼ばれる不適格な母親でない限り、3歳以下の乳幼児においては母親が優先されるという考え方があった。このような母親優先の考え方は、母親神話を生み、性役割分業観に基づく生活実態に支えられた。  しかし、1970年代から1980年代にかけて男女の役割分業観に変化が生じ、男女平等が本格的に進むと乳幼児の推定原則や母親優先の原則は批判され、性的に中立な「 子どもの最善の利益 (the best interests of the child)」が重視されるようになった。  それでも母親優先の原則が根強かったのは、子どもが3歳以下の場合に監護者になりたいと答える父親がいなかったことや「 同胞不分離の原則 」によって3歳以下の子どもがいる場合は、父親が、その兄弟姉妹の監護者になることを望んでも、同胞不分離の原則によって子ども達全員の監護権が母親に委ねられるという現実があったからである。  母親優先の原則が根強かった1970年代の論争として有名なのがゴールドスティンらの主張とそれに対する反論である。ゴールドスティンらは「子の最善の利益を超えて」という著書の中で、子の監護紛争では継続性を重視すべきだとした。子どもの健やかな成長発達のためには養育環境の安定こそが重要であり、子どもは大人のように待つことはできず、時間的感覚が違うので、子どもが現在または将来密着した関係を築く「心理的親 (psychological parent)との関係を尊重しなければならないとした。ここでは実の親よりも心理的親子関係を形成している大人を指定し、養育環境の継続性を重視した。それは、現状が落ち着いていれば変更する必要はないと受け止められ、多くの批判を浴びた。  ゴールドスティンらは「 法的制裁を加えてまで行わせようとする面会交流のあり方はおかしいのではないか 」という問題も提議をした。これに対して「 両親が別居・離婚して、監護権が一方の親に委...

ドイツ:離婚後単独親権制は違憲

 日本の民法とドイツの民法(BGB)は構造が似ている。日本の民法は、明治時代にドイツやフランスの大陸民法の影響を強く受けて起草されている。  ドイツでは、1979年に民法(親権法)が改正されて、それまでの 親権 が、 親の配慮 という表現に置き換わった。 親の権利ではなく親の責任や義務を明確にするためである。この時、ドイツでも現在の日本と同じ離婚後単独親権制が定められた。正確に言えば、ドイツでは離婚後の単独親権(配慮)制度がとられていたが、法改正後も離婚後単独配慮制が継続することになり、それが日本と同じように 例外のない 規定であることが強調された。 【BGB1671条 親の離婚後の親の配慮】  (親権法の全面改正後)  父母の婚姻が離婚されるとき、家庭裁判所は、父母のいずれに共同の子のための親の配慮が帰属すべきかを決定する。  裁判所は、子の福祉に最もよく合致する取決めを行う。この場合、とくに父母や兄弟姉妹に対する子の絆が顧慮されなくてはならない。  子の福祉のために必要であるときにのみ、裁判所は、父母の一致した提案とは別の判断を下すものとする。満14歳になった子が、異なる提案をするときには、裁判所は2項にしたがって裁判する。  親の配慮は、父母の一方に単独で委ねられなくてはならない。子の財産上の利益が必要とするときには、財産配慮は、全面的もしくは部分的に父母の他の一方に委ねられなくてはならない。  子の福祉にとっての危険を回避するために、必要があるときには、裁判所は、身上配慮および財産配慮を後見人もしくは保護人に委ねることができる。  この改正で問題にされたのは、BGB1671条4項に規定されていた「 原則として 」という文言が削除されたことである。このため法律の文言上、例外として離婚後の親の共同配慮が認められる可能性を排除することになった。このため離婚後の親の配慮は、名実共に 例外なき単独配慮 となった。  その他に、次のような点が注目される。1)共同配慮であっても条件が整えば子の利益に合致するという見解が強く主張されるようになり立法課程でも吟味された。2)何が子の福祉に合致するかという判断において、子にとっての特定の関係人との絆が顧慮されなければならないとされた。3)子(満14歳以上)の意思を尊重する規定が設けられた。   1979年改正法(1980年施行)...